小 園 凱 夫
私は2002年2月に左脳内出血、2009年3月に右脳梗塞を患って両側マヒとなり、字が書けないなど不自由なことは多々ありましたが、最大の問題は歩き方を完全に忘れて歩けなくなったことでした。マヒが脳の病であることに気づいた私は、退院後暗中模索、試行錯誤の自己流脳に働きかけるリハビリを開始しました。感覚を頼りにして失くした運動の要領を身体と脳に再学習させるつもりのリハビリは、新しい発見や改善の連続で毎日楽しいばかりでした。私の考案した“だましのテクニック”も功を奏してマヒがかなり回復し、ちょうど2年後に違和感のないヨチヨチ歩きの‘作った歩き’が突然生まれました。以後‘作った歩き’を‘普通の歩き’に改善するためのリハビリを今日まで続けてきた過程で、歩きだけではなく手の運動感覚も蘇り、10年半ぶりに突然小さな字が書けるようになるなどいろいろな奇跡的な変化がありました。これらの変化は損傷した脳神経のバイパス回路が構築された結果としか考えられません。今もなお私の身体と脳は着々と進化を続けています。
日常生活や思考、運動など身体のすべてをコントロールしている脳、それなのに健常なときにはその存在さえ意識されない脳。脳卒中を患ったことをきっかけにそんな脳の生理機能に興味をもち、あれこれ目に触れた本を読みあさりました。ある日私の講演の後、80代の方からいただいた「脳を喜ばすことがそんなにいいことだと初めて知った。私もこれから心がけてみよう。」というご意見で、患者の会の皆さんにも脳についてもっと知ってもらえばきっとリハビリに役立つだろうと、本と私の体験から学んだ脳の特性を毎月ひとつずつわかりやすく紹介していくことを思い立ちました。